
アパレル業界のDXとは?事例や導入の流れ・注意点を解説
「在庫管理に時間がかかる」「流行の変化に対応しきれない」「ECと実店舗の連携が難しい」など、課題に直面しているアパレル企業も多いのではないでしょうか。そのような中で注目されているのが、デジタル技術を活用した業務改革「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。
当記事では、アパレル業界におけるDXの具体的な施策や成功事例、導入のステップ、注意点を詳しく解説します。自社に合うDXの進め方を知ることで、業務効率の向上や顧客満足度の改善といった成果を目指す第一歩を踏み出せるでしょう。
目次[非表示]
- 1.アパレル業界のDXとは
- 1.1.RFID
- 1.2.AIによるトレンド分析
- 1.3.スマートファクトリー
- 1.4.One to Oneマーケティング
- 1.5.ライブコマース
- 1.6.バーチャル試着(バーチャルフィッティング)
- 1.7.OMO/オムニチャネル
- 2.アパレル業界でDXを推進している企業の事例8選
- 2.1.株式会社ワコール
- 2.2.株式会社ZOZO
- 2.3.株式会社ファーストリテイリング
- 2.4.株式会社グンゼ
- 2.5.PVH
- 2.6.FABRIC TOKYO
- 2.7.インディテックス
- 2.8.バッジェリーミシュカ
- 3.アパレル業界でDXを行う時の流れ
- 4.DXに失敗しないための注意点
- 4.1.顧客接点を逃さない形でDXを進める
- 4.2.現場の声を聞いてサービスを選ぶ
- 4.3.従業員のリテラシーを向上させる
- 5.まとめ
アパレル業界のDXとは
アパレル業界におけるDXとは、IT技術を活用して業務を効率化したり、顧客サービスを向上させたりする取り組みです。商品企画から販売・アフターサービスまでの全工程において、DXは新たな価値を生み出しています。ここからは、アパレル業界で実際に活用されているDX施策を項目別に紹介します。
RFID
RFID(Radio Frequency Identification)は、電波を用いて商品に取り付けられたRFIDタグから情報を非接触で読み取る技術です。アパレル業界では、商品の値札にRFIDタグを埋め込むことで、無人レジや在庫管理の効率化に活用されています。たとえば、タグ付きの服をレジに置くだけで、複数の商品情報を一括で瞬時に読み取れるため、スキャン不要でスムーズなセルフ会計が可能になります。
また、生産段階で貼られたタグにより、工場・倉庫・店舗間での在庫状況をリアルタイムで可視化できるのも特徴です。箱を開けずに中身の検品が可能なため、棚卸しや検品作業の時間短縮にもつながります。結果として、人手不足への対応や、業務の属人化解消にも効果を発揮するでしょう。
AIによるトレンド分析
AIによるトレンド分析は、ソーシャルメディアに投稿されたファッション画像やECサイト上のユーザーの行動データを解析し、今後のデザインやカラー、スタイルの流行を予測する施策です。近年はアパレル企業がDXを推進することで、年齢・性別・地域・購入履歴といった顧客データを収集し、AIによってニーズを細かく把握できるようになりました。
たとえば、地域別に人気の色や素材を把握し、店舗ごとの商品構成を2週間ごとに入れ替えるなどの施策に反映できます。これにより、「ほしい商品がいつもある」という状態を維持でき、顧客満足度の向上につながるでしょう。さらに、AIによるトレンド分析は商品開発にも応用でき、短期間でヒット商品を生み出す体制づくりにも貢献します。
スマートファクトリー
スマートファクトリーとは、IoTやAIなどの先端技術を活用して、生産工程を自動化・最適化する次世代型の工場のことです。アパレル業界では、顧客ごとに異なるニーズに対応するマスカスタマイゼーションの実現や、短納期・小ロット生産への対応が求められる中、スマートファクトリーの導入が進んでいます。
工場内の機器やシステムをネットワークでつなぎ、リアルタイムに生産状況や在庫情報を可視化することで、生産性の向上や不良品の削減、リードタイムの短縮を図ることが可能です。また、原材料調達から製造・販売までに至るサプライチェーン全体を可視化することには、コスト削減やサステナビリティの向上などの効果も期待できます。
One to Oneマーケティング
One to Oneマーケティングは、顧客一人ひとりの属性や行動履歴をもとに、最適な商品提案や情報提供を行うマーケティング戦略です。アパレル業界では、ECサイトやアプリ、メール配信などを通じて、購買頻度や好みに応じたレコメンドやクーポン配信、キャンペーン案内を実施することで、顧客ごとの購買意欲を高めています。
たとえば、定期的に購入する顧客には会員特典を、長く購入がない顧客には再来店を促す限定オファーを届けるなど、細やかな対応が可能です。結果として、顧客満足度やロイヤルティが向上し、LTV(顧客生涯価値)の最大化にもつながります。新規獲得はもちろん、既存顧客の維持も重視される今、One to OneマーケティングはアパレルDXにおいて重要な柱となっています。
ライブコマース
ライブコマースは、ライブ配信を通じて視聴者とリアルタイムでやり取りしながら商品を紹介・販売する手法です。アパレル業界では、販売員やインフルエンサーが実際にアイテムを着用し、着こなしや質感、サイズ感をその場で伝え、視聴者に臨場感のある購買体験を提供します。
視聴者はコメント機能を使ってその場で質問ができ、配信者が即座に対応すると信頼性が高まり、購入意欲の喚起にもつながります。また、配信中に設置された購入リンクや限定オファーによって、視聴者の衝動買いも促進されます。広告費を抑えながら高い訴求力を得られることから、実店舗やECに代わる販売チャネルとして注目を集めており、ブランド力の向上にも貢献する施策の1つです。
バーチャル試着(バーチャルフィッティング)
バーチャルフィッティングは、ARやVR技術を活用して、サイネージやスマートフォン、ウェブサイト上で衣類やアクセサリーの試着を体験できるシステムです。ECサイトや実店舗の在庫状況に左右されず、顧客は自宅や外出先からでも簡単に着用イメージを確認できます。
これにより、試着できないことによる機会損失を防げるほか、サイズ違いやイメージ違いによる返品率の低減にも効果を発揮します。また、複数のアイテムを短時間で試せるため、トータルコーディネートの提案もしやすく、購買率や顧客単価の向上にも寄与するでしょう。スタッフのサポート業務や在庫管理の負担が減り、業務効率化を図れるなど、店舗・顧客双方にとってメリットのあるDX施策です。
OMO/オムニチャネル
OMO(Online Merges with Offline)は、顧客体験の向上を目的に、オンラインとオフラインの垣根を取り払う考え方です。両者を組み合わせることで、アパレル企業は購買データを統合・分析し、よりパーソナライズされたサービス提供や在庫の最適化が実現できます。顧客サービス向上とともに、LTVや売上の最大化にもつながるでしょう。
オムニチャネルは、実店舗・ECサイト・アプリなどすべての顧客接点を連携させ、どのチャネルからでも一貫した購買体験を提供する戦略です。たとえば、店舗で試着した商品をオンラインで購入したり、ECサイトで注文した商品を近隣店舗で受け取れたりするなど、チャネルをまたいだ柔軟な買い物が可能になります。
アパレル業界でDXを推進している企業の事例8選
アパレル業界では、先進的なDX戦略を取り入れて業績や顧客満足度を向上させている企業が増えています。ここでは、アパレル販売においてDX化を積極的に推進している8社の事例を紹介します。
株式会社ワコール
株式会社ワコールは、3D計測サービス「3D smart & try」やAIによる骨格診断サービス「わたしを知る骨格診断」により、顧客に合わせた最適な商品提案を実現しています。3秒で完了するセルフ計測を通じて、サイズや骨格タイプに応じたファッションアドバイスを提供し、顧客満足度の向上に貢献しています。計測データはアプリ「WACOAL CARNET」と連携しており、顧客はいつでも自身の体型データを確認し、過去との比較も可能です。
こうした顧客体験の質を高める取り組みが評価され、ワコールは2024年に経済産業省などが選定する「DX銘柄」に選出されました。今後もLTVの最大化やオープンイノベーションの推進を通じて、顧客との関係性を強化する姿勢を示しています。
株式会社ZOZO
株式会社ZOZOは、ユーザー一人ひとりに合うサイズ提案と購買体験の最適化を目指し、DXを活用した多角的な取り組みを展開しています。「マルチサイズプラットフォーム(MSP)」では、身長と体重の入力により、最適なサイズを自動でレコメンドし、サイズ選びの悩みを軽減しています。その基盤には、かつて話題となった3D計測ツール「ZOZOSUIT」で培ったノウハウが駆使されました。
また、生産工程の複雑性に対応するため、社内システムをフルスクラッチで構築し、進行管理のリアルタイム化や業務フローの標準化を推進しています。ファッションアプリ「WEAR」では、AIを活用した類似商品検索機能を提供し、感覚的に近い商品を効率よく探せるようにしています。
株式会社ファーストリテイリング
株式会社ファーストリテイリングは、デジタル技術を活用したサプライチェーンの可視化と一元管理を推進しています。特に、原材料の調達から店舗販売までの全工程をトレースし、サステナビリティを重視した供給網の構築に注力しています。
有明プロジェクトでは、RFIDを活用したセルフレジの導入や、在庫管理の自動化によって顧客体験の向上と業務効率の両立を実現しました。さらに、社内エンジニア主導でAIによる需要予測やEC基盤の構築にも取り組んでおり、DXを自社主導で進める体制を整えています。2022年にはグローバル本部をニューヨークに設立し、国際的な人材や知見を取り入れながら、より高度なデジタル戦略を展開しています。
株式会社グンゼ
株式会社グンゼは、経営・販売・生産・間接業務の各領域においてDXを推進し、全社的な業務改革と企業価値の向上に取り組んでいます。経営情報を見える化する経営ポータルの刷新によって迅速な意思決定を支援し、販売部門ではビッグデータやAIを用いた需要予測によって在庫ロスの削減を進めています。
生産現場では、センシング技術やAIを活用したスマートファクトリー化を図り、働き方改革と生産性の向上を両立しています。さらに、ウェアラブル端末と導電性ニット素材を融合したスマートインナーの開発にも取り組み、リアルタイムでの生体情報の取得やクラウド連携による新サービス創出にもつなげています。
PVH
PVHは、TOMMY HILFIGERなどを展開するグローバル企業として、サステナビリティや多様性への対応とともに、ファッション業界のDXを牽引しています。特に注目されるのは、3Dデザインによる製品開発のデジタル化で、サンプル制作の効率化や廃棄物削減を実現しました。2022年春のコレクションでは、すべての商品が3Dで設計され、サーキュラリティの向上にも貢献しています。
また、Web3.0やメタバース領域にも積極的に進出し、ゲーム内でのファッションショーを開催するなど、新たな顧客接点を模索しています。デジタル技術の導入と同時に、店舗ではリアルとオンラインの融合を図り、ポップアップイベントや体験型空間を提供する取り組みも強化しています。
FABRIC TOKYO
FABRIC TOKYOは、ビジネスウェアのD2Cブランドとして、顧客体験を起点にしたDXを推進しています。リアル店舗を「商品を売る場」ではなく「採寸と顧客理解の場」と位置づけ、オンラインとの連携を前提としたOMOモデルを構築しました。実際に採寸したデータをもとにした提案により、リピート率やLTVの向上を実現しています。
さらに、RaaS(Retail as a Service)の概念に基づき、サイズ保証やお直しをサブスク型で提供するなど、商品購入だけでなくサービス提供まで視野に入れた戦略を展開していることも特徴です。顧客ごとのサイズデータや好みを蓄積することで、One to Oneの価値提供につなげています。
インディテックス
ZARAを展開するインディテックスは、業界随一のスピードと柔軟性を支えるDXを積極的に推進しています。たとえば、全商品にRFIDを導入し、店舗とEC在庫を一元管理することで、販売機会の最大化と在庫効率の向上を実現しました。さらに、アプリ上で商品位置や試着室予約が可能な「CLICK & FIND」や「CLICK & TRY」、店頭受取ができる「CLICK & GO」など、顧客体験の向上を図っています。
巨大な本社データセンターでは、世界中の販売・生産データを集約し、リアルタイムに分析・意思決定を行える体制を整備しました。従業員の感度の高いフィードバックを生かして短サイクルで商品開発を行い、店舗ごとの顧客ニーズに柔軟に対応する点もZARAの強みです。
バッジェリーミシュカ
バッジェリーミシュカは、ファッションショーに先進的なDXを取り入れることで、ブランド体験の開放と市場反応の可視化を実現しています。従来は招待客のみに限定されていたショーをSNSで配信し、視聴者はリアルタイムでランウェイの様子を楽しめるようになりました。モデルの衣装には小型の装置を取り付け、視聴中に着用アイテムの詳細情報を確認できる仕組みも導入しています。
また、「いいね」ボタンによる評価も可能で、そのフィードバックは即座にバックステージへと共有され、素材発注や販促計画に反映されています。こうした取り組みにより、同社は従来の閉鎖的なショーから一歩進み、視聴者参加型の新たなファッション体験を構築しています。
アパレル業界でDXを行う時の流れ
アパレル小売企業やアパレルメーカーなどでDXを推進するには、やみくもにシステムを導入するのではなく、目的を明確にし、段階を踏んで進めていくことが重要です。ここでは、DXを成功に導くための基本的な流れを、3つのステップに分けて解説します。
1.課題と目的の明確化 |
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最初に行うべきは、社内の現状把握と課題の洗い出しです。部署ごとに異なる視点から意見を集め、全社的なボトルネックを明確にします。その上で、DXによって何を実現したいのかという目的を定めましょう。 |
2.解決策の検討と体制の構築 |
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目的が明確になったら、課題解決に向けた手段を検討します。デジタルは手段の1つであり、無理にシステムを導入する必要はありません。ただしIT技術の活用が有効な場合は、社外の専門家の力も借りつつ、DXチームや人材などの推進体制を整備します。 |
3.計画・実行・検証 |
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体制が整ったら、DXのロードマップを策定し、予算やリソースを確保してプロジェクトを始動します。導入後はマニュアル整備やサポート体制の構築も重要です。さらに、定期的な振り返りを通じて効果を検証し、次の改善へとつなげていきます。 |
DXに失敗しないための注意点
DXを成功させるには、正しい手順だけでなく、よくある失敗要因を避ける意識も欠かせません。ここでは、アパレル業界でDXを進める際に注意すべきポイントを紹介します。
顧客接点を逃さない形でDXを進める
アパレル業界でDXを進める際は、顧客接点を損なわないよう注意が必要です。たとえば、オンライン販売に注力しすぎると、店舗での接客を重視していた既存顧客が離れてしまう可能性があります。
デジタルでの接客やサービスに慣れていない顧客層も考慮し、導入する施策の優先順位を慎重に決めるようにしましょう。リアルとデジタルを融合させ、全体の顧客体験を向上させることが、DX成功のカギとなります。
現場の声を聞いてサービスを選ぶ
DXツールを導入する際は、店舗現場の実情を無視した選定は避けるべきです。実際に何度も店舗に足を運び、従業員とヒアリングを重ねることで、見えていなかった「本当の課題」が明らかになります。
たとえば、接客中にその場で顧客情報や在庫状況を確認できる仕組みが、現場にとって本当に必要とされていたというケースもあります。机上の論理ではなく、現場起点でのツール選定が、DXを機能させる第一歩です。
従業員のリテラシーを向上させる
どれほど高機能なツールを導入しても、現場の従業員が使いこなせなければ意味がありません。そのため、アパレル店舗では、スマホやタブレットなど、常に持ち歩けるデバイスを使ったツールの導入が有効です。
特にiPhoneは直感的に操作できる仕様なので、日々の業務に自然に組み込め、デジタルリテラシーの向上にもつながります。まずは「現場で使われること」を意識した設計が大切です。
まとめ
アパレル業界におけるDXは、RFIDやAIのデータ分析、バーチャル試着などの技術を活用し、業務効率や顧客体験を向上させる手段として急速に浸透しています。実際に多くの企業が独自のアプローチでDXを推進しており、OMOの展開やスマートファクトリーの導入などが成果を上げています。
ただし、DX推進を成功させるには、課題の明確化や現場の意見の反映、従業員のリテラシー向上といった視点も不可欠です。単なるツール導入ではなく、「顧客接点を損なわない」「現場に寄り添う」などの工夫が求められます。
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